takminの書きっぱなし備忘録 @はてなブログ

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工学的思考法がどう仕事の役に立つのか

前回【科学的思考法がどう仕事の役に立つのか】の続き


まずはおさらい。
僕は独断と偏見で、学問を「科学」、「工学」、「哲学」、「論理」の4つに分類した。
前回は「科学」について説明したけど、今回は「工学」がどんな思考方法に基づいていて、それが具体的にどんなふうに仕事に役に立つ(立った)のかをまとめたい。

工学とは?

工学は「目的」を達成するための方法論を考える学問だ。科学が積み上げた事実を元に対象をモデル化するのに対し、工学は目的達成のためのモデルを人為的に創り上げる。
工学という言葉を聞いてすぐに思い浮かべるのが、電気工学や機械工学、情報工学など、製品開発のベースとなる理系の学問群だろう。これらは、例えば電話を例に取れば、「距離の離れた人同士が音声で話せるようになる」といった形で目的が明確だ。ただ、工学はこれら理系分野に限ったものではない。
例えば法学なども立派な工学だ。これは、「自由で平等な民主主義社会を作る」という目的に対し、どのような法律を定めるべきか、という手段を考えていく。憲法も含め個々の法律には、その法律によって実現したい目的が存在する。これは法律だけでなく、物理的な制約や、社会規範、個人の動機などもトータルで考えた上で、どうすれば目的を達成する上で最適かを考える必要がある。
医学などは、人の体を理解するという科学的側面も強いが、一方で人の病気を治すという目的のもと、どのような手段で治療を施せばよいかという工学的な側面も持つ。

工学的思考法

工学的思考法は、「目的志向」の思考法だとも言える。ある目的を達成するためにどのような手段をとらなくてはいけないか、というのをブレークダウンで考えていく。逆に言えば、選択した手段が、なぜその「目的」を達成することに貢献するのか、ということが明確に説明できなくてはならない。「ただなんとなく、うまくいきそうだから」というのでは、工学的思考法としては失格だ。
工学的思考法では、目的を達成する手段を導くために、目的を更に小さな目的へと分割していく。例えば根本の目的が「収入を増やす」ということだった場合、その手段として「良い給料のところに転職する」、そのために「スキルアップをする」、そのために「毎日1時間勉強する」といった具合に目的を細かいレベルまで落としていく。もちろん、「良い給料のところに転職する」の目的のためには他にも「転職活動する」など、分割される小目的は複数あるのが普通だ。
このように目的を分割していくというアプローチは「ロジックツリー」というビジネスで多用される技法とも同じだ。

応用例

工学的手法の応用は明確だ。例えば製品開発やサービス企画/開発、制度作りや組織作りなど、あらゆる実社会の「作る」という活動において使用することができる。そして、工学的思考によって細部まで徹底的に考えぬかれた製品、作品、サービスなどは、「美しい」と感じるほどの一貫性を持ち、人を感動させる力を持つ。
実は、工学的思考法はモノ作りの場面以外でも、意外と応用範囲が広い。例えばお客様から仕事の依頼を請けた時に、お客様がなぜそれを依頼したのか、お客様の「目的」はどこにあるのか、を正しく理解することができれば、目的を知らない場合と比較して、より顧客満足の高いアウトプットを出すことができる。なぜなら、その作業を行なっている時に、詳しく指示されていないことがあっても、その目的から「何をやるべきか」を類推できるからだ。これは顧客に限らず、例えば上司からの指示についても同じことが言える。またよくある話として、顧客からAという依頼を請けたが、顧客の要望をよくよく聞いて目的を理解してみると、実はAよりもBを行った方が良いという場面も多々ある。
このような場面に限らず、人が作ったもの(組織、制度、技術、etc)には殆どの場合、それを作った目的というのが存在しているため、まずその目的を押さえることが、それを理解する最も手っ取り早い手段だ。例えば会社組織の場合、会社が実現したい目的に対して、手段が決められ、その手段に基づいて部署や人事制度、予算などが作られる。そして、そこに強い一貫性があるのがよい組織で、そうでないのは悪い組織だ。
また、人に何かを説明する場合においても、例えばなぜこの手段を選んだのか、というのを目的と絡めて説明すれば相手の理解が得られやすい。その説明が例え難しい数式であっても、その数式を用いた意図を目的と絡めて説明できれば、相手の理解を助けることができる。

まとめ

  • 工学は、目的を達成するための手段を考える学問
  • 目的を更に小さな目的に分割して手段を考えていくのが工学的思考法
  • 人間が作ったものにはほとんどの場合「目的」がある。モノ作りだけでなく、お客さんの要望や、組織、制度なども、その「目的」を理解することが大事